第5回 「山頂が一面蒼白の白山(しろやま)」

忘れられた奇岩の地
 「ちょっと寄り道」第5回目をお届けします。今回は桜井市の北東部にある巻向山(まきむくやま)の南西麓、奥不動寺の北方にある白山というところをご紹介します。
 この白山は、石英・長石質に富んだ花崗岩が露出して風化により地表が剥離し禿山になっており、蒼白の山が周辺の緑の山々から浮きだって周りの景色とまったく違う様相です。このような景観から地元では白山と呼ばれています。またここには天狗岩と呼ばれる奇岩がそびえ立ち一勝地をなしています。

 ところで白山は地元住民の中でも年配者の間ではよく知られているのですが、若年者の間では知る者が少ないようです。その理由として場所が三輪山の東方、県道50号線から、南へ約1.7kmと非常に条件の悪い林道を上っていかなくてはならない場所にあるため、奇観の地でありながら、その存在が人々に知られる機会がなくなっていったのだろうと考えられます。




奥不動寺 白山はこの北側にあります



奥不動寺横の林道には
こんな案内板が立っています






周囲の山と景観を異にする白山






斜面は風化していてよく滑ります


天狗岩などの奇岩も見られます

白山の植生
 白山に隣接する山々が、アカマツ、モチツツジ、ネザサの群生であるのに対し、この山頂には一木一草も生育していません。岩隙あるいは、崩壊堆積層にススキ、トダシバ、コシダ、ワラビ等の宿根草本をはじめ、アカマツ、ネズ等の菌性木本のほか、アクシバ、モチツツジ、ネジキ、ヒサカキ、サカキ、エゴノキ、コバノトネリコ、ヤマウルシ、ガンピ、ウラジロ、コナラ、サルトリイバラ等の旱魃や生理的乾燥に抵抗力の強い植物が侵入しています。




花崗岩の隙間から植物が生えています

屯鶴峯との比較
 この地域は全山が蒼白になっているため、見た感じが香芝市の屯鶴峯(どんづるぼう/県指定天然記念物)によく似ていますが、白山は花崗岩に対して屯鶴峯は堆積した凝灰岩が隆起して形成されたものですから、山の成因、岩石の種類、標高、起伏、面積等の差異はあります。しかし植物に対する生理的環境がよく似ているために両地域とともに耐乾燥の植物によって占められている共通種がきわめて多ようです。また、ガンピのように白山にあって屯鶴峯では確認できない植物が生育していることはきわめて興味があります。

両地域共通種 屯鶴峯にあって
白山に認められないもの 
白山にあって
屯鶴峯に認められないもの
コバノトネリコ・モチツツジ

ネジキ・ヒサカキ・コナラ

ネズ・アカマツ・コシダ 
ヒメムカシヨモギ・ヒメハギ
アキノキリンソウ・ヤハズソウ
オミナエシ・コツクバネ・タラノキ
コバノミツバツツジ・イヌツゲ
ヌルデ・テリハノイバラ・シュンラン
ヒメヤシャブシ・アイグロマツ
エゴノキ・アクシバ・ガンピ

サカキ・ヤマウルシ

ウラジロ・クリ・ワラビ 


白山の位置

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【参考文献】 『大三輪町史』磯城郡大三輪町 1959

(文責 公益財団法人桜井市文化財協会 中村 利光)